相続手続の窓口一本化と隠れ口座調査
この記事のポイント
今回報じられている新しい仕組みは、単なる書類の共通化にとどまらず、銀行、証券会社、信託銀行など、業界・業態をまたいで相続手続や口座確認を進められる方向に踏み出した点に大きな意義があります。
相続人にとっては、どこに財産があるのかを探す負担の軽減につながる可能性があります。今後は、対象金融機関の拡大と、各業界団体を通じた一括照会の仕組みの整備に期待したいところです。
相続実務に携わる者として、見逃せないニュースが出てきました。
今回報じられているのは、銀行や証券会社など複数の金融機関をまたいで、相続手続の受付や照会を一つの窓口で進められるようにしていく動きです。
今回のポイント
これまで進められてきた「書類の共通化」から一歩進み、銀行、証券会社、信託銀行など、業界・業態をまたいで相続手続や口座確認を進める方向に踏み出した点に大きな意味があります。
今回、報道で名前が挙がっている7金融機関
- SMBC日興証券
- 大和証券
- 野村證券
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
- 三井住友フィナンシャルグループ
- 三井住友信託銀行
- 三菱UFJ信託銀行
中国地方ではこれまでも、金融機関ごとに少しずつ異なっていた相続手続の書類や確認資料について、共通化の取組が進められてきました。もちろん、それ自体にも大きな意味がありました。相続人の方にとっては、金融機関ごとに何度も同じ説明を受け、同じような書類を何通も出し直す負担が少しでも軽くなるからです。
しかし、今回のニュースの意義は、単なる書式の共通化にとどまりません。
銀行、証券会社、信託銀行といった業界・業態をまたいで、相続手続の受付や口座確認を一つの窓口で進められる方向に踏み出したという点に、今回の大きな意味があると思います。
これは本当に画期的なことです。相続実務に携わる立場から見ても、非常に大きな前進だと感じます。
1.制度前進への歓迎
私は今回の動きを大変うれしく思う一方で、率直にいえば「ようやくここまで来たか」という思いもあります。
昨今、銀行では通帳レス化が進んでいます。これは時代の流れとして理解できますが、相続の場面では別の問題も生じます。つまり、ご遺族が被相続人の口座の存在に気づきにくくなるという問題です。
紙の通帳が残っていれば、少なくとも「この銀行に口座があるらしい」と見当をつけることができます。しかし、通帳がなく、郵便物も減り、インターネット取引が中心になると、相続人が口座の存在を把握できないケースは今後ますます増えていくはずです。
その意味で、相続の場面でいわゆる「隠れ口座」を発見しやすくする仕組みづくりは、ずいぶん前から必要だったと私は感じています。
2.今回の画期性
今回、私が特に画期的だと感じるのは、単に口座の有無を確認できること自体ではありません。
どこの銀行でも、どこの証券会社でも、一行ずつ、一社ずつ照会していけば、口座や取引の有無を確認すること自体は従前から可能です。問題は、それを相続人が個別に行わなければならず、非常に手間がかかることにありました。
その点、今回の仕組みは、銀行、証券会社、信託銀行といった異なる業界・業態をまたいで、一つの窓口で受付や照会を進められる方向に踏み出したところに大きな意味があります。
ここが重要です。
今回の画期性は、「口座確認ができるようになった」ことそのものではありません。
銀行・証券・信託銀行という異なる業界・業態をまたいで、相続人の調査負担を軽減しようとしている点にあると考えています。
3.対象金融機関の少なさ
もっとも、ここで終わってしまってはもったいないとも思います。
今回、業界・業態をまたいで7つの金融機関で対応が始まる、あるいは始まろうとしていること自体は本当にすばらしいことです。しかし、相続実務の現場感覚からすると、なお対象金融機関の数は十分とはいえません。
理想をいえば、最初からもっと多くの金融機関が参加し、より広い範囲を一括して調査できる仕組みになってほしいところです。
4.参考になる先行例
この点で、相続分野にはすでに参考になる制度があります。
たとえば株式、公社債等については、証券会社ごとに個別照会するのではなく、証券保管振替機構(ほふり)の開示請求制度によって、どの証券会社や信託銀行等に口座があるのかを確認することができます。
また、生命保険についても、各保険会社に一社ずつ問い合わせるのではなく、生命保険協会の生命保険契約照会制度によって、契約の有無を確認できる仕組みが整えられています。
先行例として参考になる制度
- 証券:証券保管振替機構(ほふり)の開示請求制度
- 生命保険:生命保険協会の生命保険契約照会制度
いずれも、個別の会社を一件ずつ回らなくても、業界団体等を通じて一定の照会ができるという意味で、相続実務上たいへんありがたい制度です。
だからこそ、預貯金についても、これと同じように、各業界団体を通じて多数の金融機関を一括照会できる仕組みが構築されれば、相続人の負担はさらに大きく減るはずです。
5.今後への期待
今回の取組は、相続実務にとって間違いなく前向きな一歩です。私はこの動きを高く評価したいと思います。
そのうえで、今後さらに期待したいのは、対象金融機関の拡大です。
業界・業態を超えた横断的な仕組みが広がれば理想的ですし、少なくとも各業界団体単位で、何十、何百という金融機関をまとめて照会できる仕組みが整えば、実務は大きく変わるはずです。
相続手続は、ただでさえ精神的な負担の大きい時期に行うものです。だからこそ、「手続を簡単にする」だけでなく、財産の所在をきちんと把握できる仕組みまで含めて整備していくことが重要だと考えます。
今回のニュースは、その意味で非常に明るい材料です。
画期的な前進として歓迎するとともに、ここで終わらせることなく、より多くの金融機関を対象にした、実効性の高い照会制度へと発展していくことを強く期待しています。
参考記事:本記事は、日本経済新聞の関連記事(2026年4月掲載)を踏まえ、相続実務の観点から整理したものです。