遺言

遺言執行者の業務内容や選任方法を徹底解説|必要なケースや報酬目安も紹介

遺言執行者とは、その名のとおり遺言を執行する人のことを指します。人は死後に財産を譲渡するため、生前に遺言書を作成することがあります。

しかし、遺言の効力が発生する時点で、遺言者はすでに亡くなっているため、自身で遺言内容を実行できません。そのため、遺言執行者を選定し、遺言の内容を適切に執行する必要があります。ただし、遺言執行者は相続において、必ず選定しなければならないわけではありません。

本記事では遺言執行者の義務や業務内容、また遺言執行者が必要となるケースなど、遺言執行者に関する情報を詳しく解説しています。

遺言執行者とは?

遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を実現するために、遺言者(遺言を書いた人)の死後その遺産を分配したり、必要な手続きを行ったりする役割を担う人のことです。

遺言書の開封は、遺言者が亡くなってから行われるものです。そのため、遺言書どおりに相続されているかどうか、遺言者は確認できません。遺言執行者という制度は、「遺言者の死後に、適切な相続が行われる」という安心を提供するものです。民法第1012条では、遺言執行者について、以下のように定めています。

第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
(引用:民法|e-Gov法令検索

なお、相続人は、遺言執行者による相続財産の処分や、その他遺言の執行を妨げることはできません。また、相続が発生した際に遺言執行者が亡くなっていた場合は、利害関係人(法律上の利害関係を持つ人)の請求によって家庭裁判所が新たな遺言執行者を選任できます

遺言執行者が負うべき義務

遺言執行者には、いくつかの義務があります。義務や権限は明確に定められていますので、以下で一つずつ見ていきましょう。

就職時に通知する

遺言執行者は就任した場合、遅滞なく相続人へ通知する義務を負います。民法では、以下のように定められています。

第千七条 2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
(引用:民法|e-Gov法令検索

以前の民法では、通知義務がありませんでした。そのため、相続人は遺言の内容がわからず、財産がいくらあるかわからないまま、相続手続きをとらなければならなかったのです。

このような相続トラブルを防止するため、令和元年(2019年)7月1日の民法改正では、遺言執行者による就任の通知が義務付けられました。

財産目録を作成・交付する

遺言執行者は、すべての相続人に対して財産目録を作成し、交付しなければなりません。財産目録とは、遺言者が保有する財産をすべてまとめたものです。これによって、相続手続きがスムーズに行えます。

ただし、遺言執行者が作成できる財産目録は、遺言書に記載されている財産のみです。遺言書に記載されていない財産の目録を作成する権限はありません。

遺言書の内容を実現する

遺言執行者は、遺言書に書かれた内容を、遅滞なく実現する義務を負わなければなりません。また、相続人に対して進捗報告する、問い合わせがあれば対応するなどの義務もあります。

万が一、遺言執行者が業務を怠ることで、相続人に不利益が生じた場合、損害賠償を請求される可能性もあります。

遺言執行者の業務の流れ

相続が始まってから、遺言執行者の業務は、以下の流れで行われます。

  1. 相続の開始
  2. 遺言執行者に就職した旨を伝える「就職通知」を相続人へ送付
  3. 遺言書の写しを相続人へ送付
  4. 相続財産調査・相続人調査
  5. 財産目録の作成
  6. 遺言内容の実行
  7. 業務完了の通知書を相続人へ送付

遺言内容の実行では、以下のような手続きが行われます。

  • 預貯金の解約手続き
  • 不動産名義の変更
  • 相続人の相続割合、遺産の分配
  • 遺贈受遺者に遺産の引き渡し
  • 認知の届出
  • 相続人廃除、廃除の取消しの申立て
  • 生命保険金の受取人の変更

ただし、上記は一例ですので、遺言書によっては業務内容が増える場合もあります。

このように、遺言執行者の業務は広範囲におよび、相続に関する専門知識がなければ適切な実行が難しいと言えるでしょう。相続を適切かつスムーズに行いたい場合は、行政書士や司法書士などの法律の専門家に依頼することをおすすめします。

遺言執行者が必要なケース

遺言執行者は、すべての相続において必要というわけではありません。しかし、場合によっては選任が必須となります。ここでは、遺言執行者が必要なケースについて見てみましょう。

子どもを認知したい場合

婚姻関係にない間柄で生まれた子どもを認知したい場合、遺言執行者を立てる必要があります。子どもの認知はデリケートな問題を含むため、生前ではなく、遺言書で行うことがあるのです。これを「遺言認知」と言います。

死後の認知は、遺言執行者しか届け出ができません。就任してから10日以内に届出をする必要があります。なお、子どもが認知された場合は「親子」と認められるため、認知された子どもは法定相続人になります。

特定遺贈したい場合

特定遺贈したい場合も、遺言執行者が必要です。特定遺贈とは、登録自動車を含む不動産などを、特定の財産を相続人以外の人(受遺者)に相続させることです。この特定遺贈は、遺言書に記載されていなければなりません。遺言執行者は、遺言の内容を実行し、特定遺贈された財産を受遺者に引き渡します。

遺言執行者がいることで、遺言の内容が確実に実行され、財産の分配がスムーズに行われます。特定遺贈を考える際には、信頼できる遺言執行者を選任することが重要です。

相続廃除をしたい場合

相続人の死後に相続人排除したい場合は、遺言執行者を選任しましょう。相続人廃除とは、特定の相続人から、相続する権利を奪うことです。万が一、法定相続人が相続から廃除されてしまった場合は、遺留分(法定相続人がもらえることを保証された遺産取得分)が請求できなくなります。

手続きでは、必要書類と申立書を用意し、800円の収入印紙代を準備して家庭裁判所へ申立てます。これらの業務は、遺言執行者しか行えません。

相続トラブルが起こる場合

相続人のあいだで遺産を巡ってトラブルが起きそうな場合も、遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。相続人は、被相続人の死によって感情的になりやすいものです。そのため、冷静な判断が難しくなるケースも少なくありません。

一方、遺言執行者は中立的な立場として、感情的な対立を回避することで、円滑な話し合いを進めやすくします。

遺言執行者は誰がなれる?

遺言執行者は、以下の条件に該当しない限り、誰でもなれます。

  • 未成年者
  • 破産者

ただし、遺言書どおりに遺言を執り行う必要があるため、業務を執行できる能力を持ちあわせている必要があります。遺言執行者に指名された人が、病気や精神状態によって判断能力が乏しい場合は、適格ではありません。

遺言執行者の選任方法とは

遺言執行者の選任方法は、主に2つあります。

  • 遺言者が直接指名する
  • 家庭裁判所に申し立てて選任してもらうか

選任方法の詳しい内容を見てみましょう。

遺言者本人が指定

1つめは遺言者本人が、指定する方法です。遺言執行者としての業務を、しっかりと果たしてくれる人を選びましょう。遺言書には、以下のように、記載します。

「遺言者は、遺言執行者として次の者を指定する。
 住所 東京都〜〜区〜〜〜
 氏名 相続 太郎」

遺言執行者を引き受けてもらいたい人には、あらかじめ遺言書で指定していることを伝えておきましょう。なお、遺言執行者を決められない場合は、自分以外の人に選んでもらう旨を書いておいても構いません。

家庭裁判所で選任する方法

2つ目は家庭裁判所に選任してもらう方法です。遺言書で、誰も指定されていなかったり、指定された人が亡くなったりしている場合で、遺言執行者を立てたいなら、家庭裁判所に申し立てを行います。

家庭裁判所による選任を選んだ場合も、候補者に就任の意思を確認する必要があります。申立てにかかる収入印紙代は800円です。申立て先となるのは、遺言者の最後の住所地にある家庭裁判所です。

詳細は、裁判所のホームページから、ご確認ください。

遺言執行者の報酬とは

結論から言うと、遺言執行者の報酬に決まりはありません。遺産総額のおおよそ1%〜3%が相場となっています。報酬の決定額は、主に以下の方法で決定されます。

  • 遺言書にて報酬を定めておく
  • 相続人同士で話し合って決める
  • 家庭裁判所に決めてもらう

遺言執行者を法律の専門家に依頼する場合は、財産の取り扱いに注意が必要です。この場合、相続財産から報酬を支払うケースが一般的ですが、報酬費用は債務として控除できません。そのため、相続税の計算では、報酬分を差し引かない額で申告しましょう。

遺言執行者を選任するメリット

遺言執行者を選任するメリットは、相続手続きを円滑に進められることです。特に、法律に詳しい専門家へ依頼すれば、中立的な立場から遺言を執行できます。

相続では預貯金の払い戻しや不動産登記の変更など、さまざまな手続きが必要となります。遺言状の内容によっては法律の専門知識が求められることもあり、相続人だけで対応するのは困難となるケースもあるのです。遺言執行者を選定すれば、これらの手続きを任せられるため、相続人の負担が軽減されます。

さらに、遺言の内容によっては、遺言執行者がいなければ手続きを進められないケースもあります。そのような場合、遺言執行者の選任は必須です。遺言執行者の選任することで、相続手続きの円滑化や専門知識の活用、相続人の負担軽減など、さまざまなメリットがあります。

遺言執行者を解任したい場合の手続き

一度指名された遺言執行者でも、任務を怠った場合や、正当な事由があれば解任できます。民法では、以下のように定められています。

(遺言執行者の解任及び辞任)
第千十九条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
(引用:民法|e-Gov法令検索

遺言執行者を解任する手続きの流れは、以下のとおりです。

  1. 「遺言執行者解任の審判」を家庭裁判所へ申し立てる
  2. 新しい遺言執行者を選ぶor相続人で相続を進める

なお、相続に遺言執行者が必要なケースの場合、新たに遺言執行者を指名する必要があります。新たに任命する場合は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、申立てしましょう。

遺言執行者に関するQ&A

ここでは、遺言執行者において、よくある質問についてお答えします。

Q.複数の遺言執行者を選定することは可能ですか

遺言執行者の人数は、1人でも複数でも、構いません。特に人数に規定はなく、民法でも以下のように定められています。

第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
(引用:民法|e-Gov法令検索

複数の遺言執行者を選定する大きなメリットは、役割分担できる点です。例えば、法律に関することは専門家である士業に依頼し、その他の手続きは相続人に頼むことで、相続の手続きがスムーズになります。

また、万が一、選定した遺言執行者が亡くなった場合でも、他の遺言執行者が業務を引き継ぐことができます。デメリットは、1人の場合よりも報酬が多くかかること、意思決定するまでに時間がかかることなどです。複数の遺言執行者を選定する場合は、メリット・デメリットを踏まえて検討すると良いでしょう。

Q.遺言執行者を辞退する手続きを教えてください

遺言執行者に指定された場合でも、辞退できます。就任前であれば、遺言者に断りの連絡を入れるだけで問題ありません。

もちろん口頭でも可能ですが、辞退する旨を書面に残しておくのがおすすめです。記録に残しておくことで、誤解や誤伝のトラブルを防げるからです。

なお、遺言執行者として就任したあとに辞退したい場合は、正当な事由を用意し、家庭裁判所の判断を仰がなければなりません。正当な事由とは、健康や仕事、生活上、どうしてもできない理由のことです。例えば「急に病気になった」「海外出張を命じられた」「親戚の介護が必要になった」などがあります。

就任前の辞退は比較的容易ですが、就任後の辞退は難しいため、遺言執行者を引き受ける際には、慎重に検討する必要があります。

遺言執行者のことなら遺言の窓口におまかせください

遺言執行者は、遺言書に書かれた内容を、適切に執り行う人のことです。未成年や破産者でなければ、基本的に誰でも就任できますが、業務内容は複雑であり、遺言に関する専門知識が求められます。

相続に関することは、行政書士や弁護士などの「法の専門家」に依頼すれば、スムーズな相続手続きが可能です。また、第三者の中立の立場として業務を執行するため、相続人同士の争いを未然に防げます。「遺言の窓口」では、経験豊富な行政書士が、遺言執行者としての業務はもちろん、相続に関するさまざまな手続きを代行しております。円滑かつ円満に相続手続きを済ませたいとお考えの方は、お気軽にご相談ください。